玄の散歩帖

温泉、レトロ、写真など好きなものごった煮ブログ

奈良田温泉・白根館日帰り入浴と下部温泉街の散策                  ー2023年3月 春の山梨旅行 その②ー

 

前回に続いて、春の山梨旅行の記事になります。

ranporetro.hatenablog.com

 

昨夜は宿に着くのが遅くなり、館内を見て回ることもなく床についてしまった。

そんなわけで、起床後に少しばかりの館内散策を。

 

散らかっていて申し訳ないが、まずは部屋の様子から。

 

泊まった"はぎ"の部屋は新館にあり、広くてとても過ごしやすかった。

トイレと洗面所がそれぞれ独立しているのも便利で良い。

新館から板張りの廊下で続いているのがこちらの本館。

大正初期に建築されたその家屋は、有形文化財にも登録されている。

新館は昭和期の増築であるが、その本館との接合部は天井がそのまま外へとつながっていたりして面白い造りだった。

母屋側には帳場があって、その隣が玄関になっている。

土地の物産品が雑多に並んでいる感じなど、なんだか田舎のおばあちゃんの家のような雰囲気があって落ち着く。

帳場付近の様子。

広い土間と、歴史を感じさせる古い掛け時計が印象的だった。

外観も本当に素敵で、宿の前は石畳を敷き詰めたお庭となっている。

鯉の泳ぐ池の隣にはそれを見下ろすように迫力ある松の木が鎮座しており、さすが文化財の宿ともいうべき風格。

直前に見つけて押さえた宿だったので、まさかここまで味のある場所に滞在できるとは思っていなかった。

宿泊代も素泊まりで6000円程度。この雰囲気と居心地の良さを考えると安すぎると思う。

宿をチェックアウトしてから駅までは徒歩で10分もかからない距離であるが、こちらの道中にもレトロな風景が広がっており楽しめた。

理容室のサインポールはそれ自体がなんとなくお洒落な感じがして好きなのだが、こちらはそれに時計が一体となっているタイプだった。

また昨夜は暗くて気がつかなかったのが、住宅街の真っただ中にあったこちらの塩山シネマ。

 

両隣を民家に挟まれたその建物はまさに町の映画館といった風情で、ブルーに塗られてくすんだ壁の色などなんともたまらない雰囲気だ。

訪問時は残念ながら外部への出張上映で休館となっていたが、開いていればぜひとも中を覗いてみたかった。

 

旅先のこういうミニシアターみたいな所で映画を観て時間を過ごしたりするのも中々楽しそうである。

 

泉質抜群のぬるぬる秘湯・奈良田温泉 白根館へ

塩山からはJRで甲府に移動し、そこからは身延線に盛り換えて、山梨県の南西部・下部温泉駅で電車を降りた。木造のひなびた雰囲気の駅舎が素敵である。

 

そしてさらにここから乗合バスに揺られ山道を進むこと約一時間、ようやく目的地の奈良田温泉へ到着。バスを降りてからは、蛇行した河川敷沿いの道を歩いて温泉まで。

 

この川沿いには何軒か温泉宿が点在しているが、帰りのバスの関係もあり、今回訪れたのは最寄りにあった白根館のみ。

白根館まではバス停から歩いて5分も掛からない距離だったが、建物に近づいてくるにつれ、外からでもはっきりと分かるほどの硫黄臭が感じられた。

こちらが入り口の様子。

この立派な門構えからも推察される通り、白根館はかつて秘湯の会にも所属して宿泊業を営んでいた、界隈でも人気の温泉旅館であった。

 

しかしながら、諸般の事情により惜しまれつつも2020年に宿泊営業を停止。

以降は日帰り入浴のみの受付施設となっている。

 

 

まずは玄関を入ってすぐの受付で、入湯料を支払う。大人1000円とやや高め。

 

浴場はいったん建物から外へ出て通路を進んだところにあり、日替わりで男女が入れ替わるようになっている。

この日は男湯が岩風呂の露天、女湯が檜風呂の露天の日だった。

 

また岩風呂側の浴場では脱衣所内で内風呂と露天がつながっていたのだが、檜風呂側は露天と内湯で脱衣所が別になっているので、移動の際にはいったん服を着てから向かう必要があるようだ(同行者の話より)。

 

泉質も非常にユニークである。

自分は内湯から入ったのだが、まず感じるのがその驚異的なお湯のぬるぬる具合

お湯の中で自分の体を撫でてみると文字通り化粧水に浸かったような、ヌルンヌルンの肌触りになっていたのには驚いた。

 

うなぎ湯を称する温泉は世に多くあれど、これは今まで訪れた中では一番かも。

泉質は含硫黄・ナトリウムー塩化物泉で、ph8.5のアルカリ性

 

また香りとしては基本的にタマゴ臭なのだが、その中にマイルドなアンモニア臭もほのかに感じられた。個人的には決して嫌な臭いでは無いが、温泉であまり嗅ぐ機会のない匂いだったから何だか新鮮だった。

 

続いて露天へ。こちらは内湯ほど混んでおらず、ラッキーなことに独泉タイムもあった。

簡素な囲いの向こう側には山を背にした川べりの長閑な風景が望めて、非常にリラックスすることができた。

 

また白根館のお湯は、その時々によって色が様々に変わるという特徴があるそうだ。

日によってはもっと青っぽかったり、透明度が高い場合もあるようだが、この日はやや緑がかった濁り湯だった。

湯口の上に立つ観音様

こちらは同行者が撮影した女湯の様子。

白根館が紹介される時は、大体この檜風呂の写真がよく使われる気がする。

岩風呂に比べて開放感という点ではやや劣るが、丸太を組んで作られた野趣溢れる湯舟は魅力的だ。

なおこちら側はずっと空いており、独泉でゆっくり入ることができたそうだ。羨ましいかぎり。

 

また自分は塩化物泉に入るときは長湯しすぎないように気を付けているのだが、不思議とここでは長く浸かっていても全くのぼせることがなかった。

湯上りにもさっぱりとした心地よさを感じ、心身ともにリラックスできたように思う。

 

もう叶わぬ夢となってしまったが、宿泊してここに夜通し入れたら最高だっただろうなぁ。

つげ義春も訪れた閑寂な温泉郷下部温泉

奈良田温泉から再びバスに揺られて、下部温泉駅まで帰ってきた。

それにしても何度見ても味のある駅名標

待合所の外には食事処と数件のお土産屋がポツポツと点在している程度で、草津のようないわゆる温泉街の雰囲気は感じられない。

お店の人達も店先でヒマそうに時間をつぶしている。良い。

ここから温泉街の中心街までは、約1km程の距離。

雨もまだ降ってこなそうなので、せっかくだし歩いて行ってみることにした。

一応祝日だったのだが、見事なくらい観光客の姿は見えない(笑)

温泉街へと続く下部川沿いの道を歩いていた折、川の右岸へと渡る橋を発見。

なんということもなく渡ってみたところ、どうやらこちらは人が渡ると音楽が鳴り始めるメロディブリッジとなっていたようで、スピーカーから童謡が流れてきた。

 

自分たちしかいない川べりで動揺のメロディがこだまする様子は、今思いだしても中々にシュールである。

 

橋を渡り切ると、右手に見えたのがこちらの変わった外観の施設。

ここは甲斐黄金村・湯之奥金山博物館という下部温泉で唯一(?)といっていいレベルの観光施設で、特に急いでもないので寄り道をしてみることにした。

 

入る前はそのBスポ感溢れる外観から温泉街にたまにある謎のギャラリーの類かと思っていたのだが(失礼)、意外にもその展示の内容は真面目かつ充実したものであった。

 

館内では見延の地における金採掘の歴史がジオラマやシアター展示等を交えて分かりやすく紹介されており、高校で日本史を履修していた自分にとっては中々興味深いものが多かった。

別料金を払えば砂金堀体験もできるようで、家族連れで来ても楽しめそうである。

 

また見学後に休憩スペースで特産品のしいたけ茶をふるまって頂いたのだが、こちらは出汁が効いており、味噌汁のような味がしてとても美味しかった。

 

 

その後はまた下部川に沿って、ひたすら温泉街を目指して歩き続けた。

川岸には桜も植わっていたが、ほとんどが早咲きの河津桜だったので葉桜になっているものが大半であったが。

 

 

そうこうしている内に、いつの間にやら温泉街の入口へと到着。

つげ義春氏は昭和60年の夏にこちらの下部温泉へ家族で訪れたそうだが、一帯にはいかにも彼が好みそうな、もの寂しい雰囲気が漂っていた。

車や人の往来もほとんどなく、聞こえてくるのはただ川の音だけ...

閉業してそのままになっている旅館もあるが、何軒かは現在も営業中。

日帰り入浴を受け付けているところもあった。

ちょっと気になる超音波風呂。ジェットバス的なモノか。

少し歩いたところに、突如現れるカラフルなビニールテント。

こちらは渓流に面して建つ老舗・湯元ホテルへの入口である。

昔の遊園地にあったような、レトロさに溢れた色合いがなんともフォトジェニック。

日帰り利用は不可となっているが、温泉は自家源泉を使用していて、下部温泉らしいぬる湯を楽しめるそうだ。

そこを通り過ぎると小さな橋が架かっていて、その背後には旅館が何軒かひしめいているのが見える。

下部温泉での一枚(貧困旅行記より)

この橋はつげ氏が以前家族との滞在時に、記念写真を撮った場所でもある。

著書の『貧困旅行記』にその写真が掲載されていたのだが、当時と殆ど変わらない佇まいだったので感動した。さすがに奥の旅館の屋号などは変わっていたが。

 

橋を渡ると、小さな空き地のような場所に出る。

狭い広場から伸びる先の見えない路地、そしてその入り口を守る階段と鳥居。

うーん、いい雰囲気である。

古湯坊 源泉館。

こちらは『ゲンセンカン主人』において旅館の名前としてそのまま登場している(内部は別の場所を参考にしたそうだが)。つげファンにとっては聖地の一つといったところか。

 

中には入っていないが非常に趣ある雰囲気で、まるで秘湯の会の宿のようだった。

温泉も足元湧出のぬる湯で湯元ホテルと同様に自家源泉も所有しているそうだから、宿泊するならここが良さそうに思う。

また、どうしても気になったので赤い鳥居のその向こうへも。

ちょっと心細くなりつつ狭い路地を抜けると、その先には年季の入った鳥居があった。

そこから奥にも道は続いていたがけっこうな上りに見えたので、お参りはせずここで引き返して、駅へと戻ることにした。

 

 

下部温泉は本当に静かだし温泉も良さそうなので、泊まりで疲れを癒すのにはうってつけの場所ではないだろうか。老後はこういう喧噪とは無縁の場所で、本でも読みながら湯治でもできたら最高なのだが…

 

次回はこの後に向かった身延山久遠寺での夜桜見学について書き、山梨旅行記を締め括ろうと思う。

 

 

それでは。