前記事に続いて、春の山梨旅行の記事になります。
さらに南下して、途中にある身延駅にて最後の寄り道を。
枝垂桜の名所・日蓮宗総本山 久遠寺
駅前ロータリーから路線バスに乗り込んで、向かうのは日蓮宗総本山として知られる身延山・久遠寺。ただ今回訪れる目的は参拝ではなく、桜の観賞である。
実は久遠寺は枝垂桜の名所としても知られていて、毎年春の時期には参拝客のみならず、多くの花見客が訪れる場所でもあるのだ。
今回下調べをしていた際にちょうど境内の桜が見頃であるという情報を発見したので、旅の最後にちょっと立ち寄って見ていくことにした。
その敷地は非常に広大で、入口である総門を越えても境内にはまだまだ辿り着かない。
総門から境内へは1kmほどの石畳の参道が続いており、その両脇には食事処や商店、旅館などが立ち並んでいる。
境内の入口にて、堂々たる威容をもって参拝者を迎えるのがこちらの三門。
"山門"ではなく三門という表記になっているのは、仏教において解脱に至るため必要とされる、空・無相・無願を表している為だという。
人が写っていないので分かりづらいが、かなりの大きさと迫力がある。
しかしながら、真に衝撃だったのはここから先である。
三門をくぐったその先に見えたのは、天まで届こうかという勢いで高く高くそびえ立つ石段。
あまりに凄まじい勾配なので、遠くから見ると完全に壁にしか見えないほどだ。
高低差104m、段数287段にも及ぶこの階段はその名を菩提梯(ぼだいてい)といい、自力で登りきれれば煩悩から解脱し、涅槃の境地に達することができるのだそう。
...つまり完全に修行だ(笑)
事前に軽くネットで調べた際に『階段がすごい…』という感想がやけに多く目につくとは思っていたのだが、よもやここまでのものとは想像しておらずちょっと呆然としたw
正直なところこのまま行くべきか悩んだが、同行者と相談をして、とりあえず行ける所までは行ってみようという事に。
石段は一段あたりが大きいので足を高く上げねばならず、これがまたしんどい。
上っては休憩しを繰り返し、少しづつ高度を稼いでいく。
何度か心が折れかけたが、細かく休憩を挟みつつ10分以上も掛かって何とか階段を登りきった。まだ桜を見ていないのに、既にちょっとした達成感を感じた。
なお石段がどうしても辛ければ、境内までは菩提梯を通らずに参拝することも可能。
三門からは石段を迂回するように男坂・女坂という坂道が続いている他に、駐車場から伸びる斜行エレベーターを利用すれば殆ど歩かずにアクセスすることができる。
ただしエレベーターは16時ごろに運行終了となるので、利用するつもりなら帰りの時間等も考慮し、余裕をもって行くのがいいだろう。
境内にたどり着いてからは目の前のベンチでしばし休憩。
体から汗が引くのを待ってから、いよいよ桜見物へ。
時間も遅めだったせいか境内には人もまばらで、満開の枝垂桜をほぼ独占して観賞できたのは嬉しかった。
本堂横のひときわ大きなこちらの木は樹齢400年を超えるものだそうで、美しさに加えてどっしりとした力強さも感じられた。
また直近で雨が降らなかったのでほとんど花も散っておらず、荒らされず綺麗に保たれていたのもよかった。
境内では本堂横の木以外にも何本か立派な枝垂桜が咲き誇っている。
どれも見事な枝ぶりで、淡いピンクから濃い紅色までそのコントラストがじつに美しい。
陽が落ちてきて境内に明かりが灯り始めると、それらは一層あでやかな雰囲気を纏っていく。
ライトアップと呼ぶには少々寂しさは否めないが、これぐらいの方がかえって自然な感じで良かったかも。
こちらは本堂横の木に比べると小ぶりだが、その形というかシルエットは群を抜いて綺麗だった。
しだれ具合も見事である。時々風に吹かれてその枝先が艶やかに揺れ動くさまは実に風流。
マジックアワーに包まれて、簾のようにたなびく桜たちがさらにその美しさを増していく。
個人的に、桜は紅葉と違ってその力強さや美しさを写し取るのがなかなか難しいように思う。
肉眼では綺麗に見えていても写真ではどことなく平凡な画になりがちなので、その空気感を表現するため、手を変え品を変え試行錯誤して色々と撮ってみた。
個人的なベストショットがこちら。
超広角でやや煽り気味に収めると、幹を中心として羽を広げているような枝垂桜ならではの迫力が現れてきた。
ひとしきり撮り終えてから、再度本堂周りを見に行く。
こちらの桜はやはり鮮やかな紅の色が素晴らしい。
濃いピンク色が社殿の暖色系の明かりによく映えている。
境内の隅には、朱色の五重塔もそびえ立っていた。
こちらの塔は明治9年の大火により焼失してしまったが、2009年に再建された。
ライトアップされて、闇夜に浮かび上がる本堂の姿。
ちょうど修行の時間だったのか、中からは威勢のいい掛け声が響いてくるのが聞こえた。
辺りはすっかり暗くなってきた。
境内にはもうほとんど誰もいなくなってしまったし、そろそろ帰らねばなるまい。
と、そんな我々の前に最後に立ちはだかるのは、やっぱりこの菩提梯である。
一度涅槃に達したからと言って、簡単に下界には降りられない(笑)
男坂や女坂を通って迂回するルートもあるが、そちらは真っ暗で別の意味で恐ろしかったので、行きと同じく階段を使って降りることにした。
上っている時に薄々察してはいたが、やはり下りは一層足腰に堪えるので辛い。
山登りでもそうだが、こういうのは得てして帰りの方がきついのである。
明らかに全身が悲鳴をあげていたが、帰りのバスの時間もあるので躊躇している暇もなく。
同行者と励まし合いながら、何とか気合で石段を下り切って参道まで出たのだった。
それなりに余裕をもって下り始めたので、満身創痍になりながらも参道のバス停には少し早めに到着できた。
安心したのか小腹が空いてしまい、近くにあった商店で総菜パンとお菓子を購入。
停留所のベンチでそれらを食べながら座っていると、幾らか体力が戻ったような気がした。
身延駅行のバスはほぼ定刻通りの到着。乗客は自分たちだけだった。
人の姿が消えて暗くがらんとした参道の中を、バスはひたすらに駆けていく。
へとへとなのに何だかすっきりとした気分なのは、涅槃の境地に達した証かもしれない(笑)
***
今回の旅は若干スケジュールを詰めすぎで移動がタイトになってしまった気もするが、なんとか旅程崩壊せず密度高めに楽しむことができたと思う。
甲府の町に関していえば、今回行った温泉以外でもまだまだ名湯が存在しているようなので、再訪時は純喫茶も絡めて未踏箇所を中心に回ってみたい。
そして久遠寺の枝垂桜!
こちらは想像以上のすばらしさで、そのクオリティと人の少なさを鑑みると、関東近郊では穴場と言っていい場所かもしれない。
ただあの階段はあまりにもきついので、次回行くことがあれば迷わずエレベーターを使いたいというのが正直な感想だが(笑)
まあでも年を取って体力的に登るのが困難になることも考えられるから、やれるうちにやっておいたというのはそこまで悪い選択ではなかったかな。
皆さんも今後もし行く機会があれば、一度は自分の足であの石段を登りきって、天上にそびえ立つ久遠寺境内を目指してみては如何だろうか。
煩悩を捨て解脱に至る経験をすることで、もしかしたら何らかの人生のヒントを得られるかもしれない。
その後の下りはヤケクソになる位メチャメチャきついですけどね(笑)
それでは。