玄の散歩帖

温泉、レトロ、写真など好きなものごった煮ブログ

寂寥の込み上げる鄙び温泉旅館・那須湯元 雲海閣で硫黄にまみれる

 

昨年の秋も終わりかけの頃、1泊2日で那須高原へ小旅行をした。

コロナの影響で休止となっていたJRの直行バスも再開となり、丁度休みも取れたので、

紅葉狩りついでに温泉にでも入ってゆっくりしようと思ったのである。

 

新宿からの高速バスはSAでのトイレ休憩などを挟みながら、3時間程度で那須へと到着した。

 

新幹線で来ることもできるが、その場合那須塩原駅で結局バスへ乗り換えることになるので、初めから直通バスに乗る方が安くて楽である。

 

温泉街の坂道に差し掛かると、あちこちから湯気と共に芳しいタマゴ臭が香ってくる。

那須といえば鹿の湯が有名だが、この一帯には同じ源泉を使用した良質な温泉たちが静かに軒を連ねているのだ。

この年は紅葉が例年より早かったようで、全体的に落葉している木々が多かった。

風が吹くとはらはらと落ち葉が風に舞って、なんだか秋も終わりかけの雰囲気である。

メイン通りの坂から左手のカーブを上り返し、ガードレール沿いに道を進んでいく。

そこから裏通りに一本入ると、トタンの屋根が特徴的な、古びた佇まいの日本家屋が見えてくる。

界隈でもとりわけマニアからの支持が厚い温泉旅館、那須湯元温泉 雲海閣である。

これだけでも十分な鄙び方だが、少し前に入口の屋根がリフォームされるまでは、もっと凄かったらしい。嗚呼、もう少し早く訪れたかった…

奥に明かりがついているので、どうやら営業はしている様子だ。

内心ホッとしつつ、引き戸を開けて中へ入る。

玄関には沢山の靴が置かれているが、不思議と人の気配は感じない。

表に車は止まっていなかったが、滞在している湯治客たちのものだろうか。

入湯料の支払いは、入って正面の帳場で行う。

宿の人がいない時はお盆の上に料金(400円)を置いておけばOK。自分の時も無人だった。

帳場のすぐ側にある調理場。

思いの他きれいに整頓されていて(失礼)長期滞在でも快適に使えそうだと思った。

館内は迷路のごとく入り組んでおり、浴室までの道のりも一筋縄ではない(笑)

まずは帳場のところを右へ。

そのまま進んでいくと、右手には廊下沿いに部屋が並ぶ宿泊棟が見える。

泊まった方々のブログによれば、意外にも(?)部屋の内部や水回りはとても綺麗だったとの事。

宿泊棟方面には曲がらずに、もともと来た道を更に真っすぐ進んで浴室を目指す。

先には漆黒の闇が広がっているが、このまま正面に行くのが正しいルートである。

さて、いよいよここからが本番だ。

 

こちらが雲海閣の代名詞ともいえる、有名な渡り廊下。

地下にあるので昼間でも薄暗く、温泉の硫化水素ガスにより壁がボロボロに剥落しているその様子は、さながら坑道のようであった。

雰囲気に吞まれそうになりつつ、おそるおそる板張りの上を進んでいく。

鄙びた建物が好きな自分でも、夜は流石に怖そうだと思った。まあ昼間でも暗いし変わらんか。

でも向こう側から人が来たら、お互いに滅茶苦茶びっくりするだろうな…

廊下を抜けると、今度はずっと下まで伸びている長~い階段の登場である。

外からは分からなかったが、どうやら見た目よりずっと立体的な構造をした建物らしい。

後から増改築を繰り返したのかもしれない。

長い階段を降りきると、ようやく現れる男女別の内湯の入口。右が女湯で左が男湯。

暖簾をくぐったところ。正面は物置で、右の引き戸を開けたところが脱衣所である。

掲示用泉質は単純酸性硫黄泉(硫化水素型)

泉質表にも書いてある通り、鹿の湯と行人の湯の混合泉を使用している。

 

浴室の扉を開けると、白濁した美しい湯と浴槽が見えた。

風情ある木の浴室を見ると、否が応でも気分が高揚してしまう。

石造りも悪くないが、自分はやっぱりヒノキやヒバで囲まれた浴室の雰囲気が好き。

中央にある湯口付近の棒は、浴槽への湯量を調節するためのもの。

なお湯量が限られている為勝手に動かさないようにとの注意書きあり。

ひとしきり浴室を眺め回した後、まず右側から入ってみる。

確か右がぬる湯、左があつ湯だったと思うのだが、この日はあまり温度の違いが分からなかった。どちらも体感42度くらいだったような?

入ってみて驚いたのが、そのインパクトある見た目に反するまろやかな浴感だった。

酸性硫黄泉だが肌がぴりつくような感じは全くなく、むしろ包まれるような柔らかい感じを受けた。

続いてあつ湯の左側も。

こちらの方が鮮度が高いためか、右側に比べ白濁は弱め。

入ると小さな白い湯の華がぶわーっと舞い上がってくるのが見えた。

昼下がりの柔らかな陽が差し込む、自分だけの静かな浴室。

その柔らかなお湯に身を任せていると、なんだかそのまま眠ってしまいそうなほどの心地良さだった。

この時は終始独泉だったので、時間を気にせずゆっくりと長湯を楽しめたので良かった。

やはり旅行は平日に行くに限る。

 

浴室を出てからは、浴場の先に広がっている廃墟部分を探索してみた。

半分千切れた姿がもの哀しい暖簾をくぐって、その先へ。

浴室より先は老朽化が一段と進んでおり、ただならぬ雰囲気を醸し出している。

障子や床は特に経年劣化がひどく、ボロボロの状態である。

長らく手を加えられていない様子だ。

部屋の内部は周囲に比べると大分小綺麗だったが、今も使われているのだろうか。

旅館部からだと浴場まで長い長い道のりを辿る必要があるので、湯治ならこちらの方が断然便利だとは思う。

現役の旅館でここまで退廃しきった雰囲気の場所はそうそう無いだろうなあ。

ひと昔前はどんな感じだったのか、往時の様子を偲びつつ地上へと発ったのだった。

息切れしながら階段を登り切ったところで、再び例の渡り廊下とご対面。

いやはや、反対側から見ても物凄い雰囲気である。

これを見るといかに硫黄泉の持つパワーが強烈であり、またその管理が大変なものであるかがよく分かる。

濃厚な硫黄泉を持つ宿は客室の家電などもすぐに壊れてしまうというから、運営維持のための努力は見えている以上に大きいのだと思う。

 

 

また目立たない場所にあるので見落としがちだが、雲海閣には地下の硫黄泉以外にも、

もう一つ明礬泉という珍しい泉質を持つお風呂がある。

 

明礬泉は眼病や皮膚疾患に効能があるとされ、その成分中にアルミニウムを多く含有しているという特徴がある。日本には少ない泉質で、自分も大昔に大分県・別府で一度入ったのみである。

 

浴室の場所は、渡り廊下の入口手前をすぐ右へ曲がったところ。

コンクリートの階段を下りたところに男女別の浴室の入口がある。

見上げると、忍者屋敷のような天井。

そばにある扉はゲームのダンジョンにでも出てきそうな感じだ。

浴室の隣は手洗い場になっているが、蛇口ごと無くなっており使用できない(笑)

硫黄泉の浴室とは違い、こちらは大きな窓が備え付けられたタイル張りとなっている。

ガラス越しに見える、那須の紅葉した木々が美しい。

簡素ながら洗い場もある

浴槽のタイルはだいぶ傷んでおり、所々尖っていて危ない箇所があるので注意。

なおこの時は水のような冷たさだったので、入浴することは敵わず写真を取っただけ。

せっかくの珍しい泉質のお風呂に入れなかったのは残念だが、那須随一の硫黄泉を独泉で堪能できたので良しとする。

これが鹿の湯だったら、混雑して平日といえども慌ただしい思いをしたかもしれない。

 

鄙び切った建物の具合も最高だったし、次回は素泊まりでゆっくり滞在するのもいいなあ。

 

外に出てみると、陽も少し傾いて一段と気温が下がってきたのを感じる。

 

雲海閣を出てからは別の立ち寄り湯に行ったり、また翌る日は那須を歩きで観光したりしたのだが、その辺りは次回の記事でまとめようと思う。

 

それでは。