今年の春のことだが、有休を使って山梨へ旅行に行ってきた。
山梨には面白そうなスポットが沢山有ってかねてから行きたいとは思っていたので、丁度休みができて、天気も良さそうだった今回のタイミングで訪れることにしたのである。
一泊二日だったので正直慌しかったが、温泉から桜まで色々な見所を効率良く回れたので、おだやかな春の甲府盆地をしっかりと満喫することができた。
本記事ではまずその玄関口ともいえる、甲府の街の様子から紹介していこうと思う。
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朝に新宿を発った高速バスに乗って揺られること2時間。
出勤ラッシュの時間帯を過ぎた甲府駅は、想像よりも閑散とした雰囲気だった。
駅前のロータリー沿いでは見事な桜の木が咲いている。
すがすがしい気候も相まって、すっかり春の陽気を感じる。
今回は甲府の街を散策するにあたり、範囲が広すぎて徒歩では難儀しそうだったので、レンタサイクルを利用することにした。
駅の連絡通路を通って北側に出て、昭和チックなネーミングが素敵なビジネスホテル・ニューステーションを目指した。
こちらのフロントはレンタサイクルの受付も兼務しているので、利用者はそこで申し込み手続と料金の支払いを行う。
台数があまり多くなさそうのが心配だったが、さすがに平日の昼から観光に行く暇人はそう多くないようで、杞憂に過ぎなかった。
駅のロッカーに荷物も預けて、いよいよ身一つで甲府の街歩きの始まりだ。
と、最初の目的地へ向かおうとした矢先、建物の一角に見えた一本の気になる細い路地。
”新大街”と書かれた古めかしい看板のもとへ吸い込まれるように近づいていくと、その先にはこれまた味のある青空アーケードが!
飲み屋街なので日中は人の気配がなく静かだが、青空が映えてこれはこれで良い雰囲気。
リングノートをちぎって作られたメモ書きが。
この頭上のごちゃごちゃ感というか、密度がたまらなく好き。
飲み屋街なので横丁の一角にはトイレもある。
なんかこう、ドラマのTRICKに出てきそうなユルさが最高(笑)
奥に進んでいくと、芸術点の高いトタン建築も。
通りを振り返って。
こういうスナックって店内が見えないので入ったことがないのだが、中はどんな感じなのだろう。まあ旅行者とかだとなかなか入りづらいんだろうけど。
いやー、それにしても下調べ無しの偶然の出会いだったがとても楽しかった。
何となく幸先の良い始まり方という感じだ。
アーケードを離れてから最初に向かったのはこちらの銭湯・喜久乃湯温泉。
ここはかつて太宰治が甲府での滞在時に足繫く通った銭湯として知られていて、当時の雰囲気を留めたレトロな内観がその見どころである。
下駄箱も昔ながらの木の板でできた鍵付きタイプ。
扉を開けた所がすぐ脱衣所になっていて、隣の番台で入湯料を支払う。
そしてすごいのが脱衣所である。
木製のロッカーの上にびっしりと並んでいるのは、往時の名残を感じさせてくれるような、
くすんで、かすれた看板たち。
銭湯の内部でこういうのを見たのは初めてだったので、ちょっと感動してしまった。
浴室の様子。
雰囲気だけでなくお湯も本物で、カランも含めてすべて源泉が使用されている(一部循環・加温あり)。泉質はカルシウム・ナトリウムー硫酸塩泉。
脱衣所の仕切りの向こうは女湯となっていて、地元のご婦人たちが談笑する声がこちらまで聞こえてきた。こういう生活に密着した場所を訪れると、なぜか落ち着く感じがする。
昔ながらの体重計も。壊すといけないので乗らなかったけれど。
まさに昭和遺産と呼ぶに相応しい空間での湯浴みは言うまでもなく最高で、湯上がりはさっぱりとした気分だった。男湯は人も少なめでゆっくりできたのもよかった。
自転車で橋を渡っていると、山の向こうで少しだけ富士が顔を出しているのが見えた。
この日は空気が澄んでいたので霞もなく、クッキリとした姿である。
続いて訪れたのがこちら。
一面緑に塗られた壁が特徴的な銭湯・草津温泉。
群馬ではなく山梨で草津温泉?と気になるその由来だが、なんでも創業者が群馬の草津出身であったことに因んでいるそう。
こちらも喜久乃湯同様に温泉銭湯で、泉質はラドンを含有する塩化物泉となっている。
館内は演歌が流れておりのんびりとした雰囲気だが、とても綺麗に保たれていて鄙びた感じはしない。
こちらが内湯の様子。
内湯の浴槽はそれぞれ温度が異なり、中央にあるメインの浴槽は適温で特に気持ちが良かった。
浴感はトロトロとしていて、外観と同じような薄緑がかった透明のお湯。
香りは重曹泉らしい、ほんのり薬品臭と焦げタマゴ臭の混ざった複雑な香りがした。
露天はこんな感じ。
こちらは独泉だったのだが、激熱でとても長くは浸かっていられなかったのですぐに内湯へ戻ってしまった。
それにしても銭湯価格(430円)でこのレベルの温泉に浸かれるとはすごいなぁ。
平日の昼間だったにも関わらず、人が絶えずにひっきりなしだったのも納得である。
一風呂浴びてさっぱりした後は、自転車を走らせて南甲府駅方面へと移動。
小腹も空いていたので昼食休憩もかねて駅前の純喫茶・俺の巴里へお邪魔をした。
ブルーの看板と煉瓦でできたレトロな佇まいがお洒落だ。
ソファーも外観と同じ青一色で統一されている。フカフカで座り心地が良かった。
訪問時には優しそうなおばあちゃんが一人で切り盛りされており、おすすめ料理のナポリタンとコーラを注文した。
このナポリタンは本当に美味しかった。
こういった場所は雰囲気が良くても味はそれなりということが正直多いのだが、味も量も自分の好みにドンピシャで、大満足。
居心地も良かったので、追加したアイスコーヒーを傍らについダラダラとしてしまった。
ちなみに隣接しているキッチンミナミはテレ東のドラマにも登場した定食屋だそうで、こちらも人気店のようで繁盛していた。
なかなか渋い雰囲気なので気になるところではあったが、小食の自分にハシゴは難しそうなので今回はパスしたが。
その後はレンタサイクルの返却時間が迫っていたので、一旦駅前へと戻った。
そこからは電車に乗って揺られること数駅、甲斐住吉駅まで移動をした。
次なる目的地は住宅地の中にひっそりと佇む穴場の温泉銭湯・トータス温泉。
こちらは看板は出ているもののマンションの裏手に隠れるように建っているので、知らなければまず辿り着けないであろう立地と言っていい。
その変わった名前は経営母体である”遊亀不動産”に由来しているようで、隣接するマンションも同社が所有している物件なのだそうだ。
入口にはその温泉の効能を示す暖簾がかけられていて、一瞥するだけでその泉質への自信が伺えるものとなっている。
内湯の浴槽は温度別に分けられていて、掛け流しされたお湯がそれぞれの縁から常にオーバーフローしていた。
お湯は透明度のある黄金色のモール泉。浴室には芳醇な甘い香りが充満していて、お湯に浸かっているだけで五感で幸せを感じることができる。
また奥には露天も備え付けられていて、こちらのほうがよりモール臭が強め。
温度も適温だったので、赤く焼けてきた空を眺めながらついつい長湯になってしまったのだった。
浴感も香りも居心地も全てが最高だったので、甲府に再び行く際はマストで再訪したいと思っている場所である。
それにしても、山梨の銭湯は本当にレベルが高いなぁ。
その後は投宿地への移動のため、また甲府駅へ戻った。
しかし意外と本数が少なく、次の列車まで少し時間を持て余すことに…
そんなわけで駅周辺で軽く時間つぶしをすることになったのだが、そんな中で見つかったのが駅前の大通りから一本入ったところにある純喫茶・六曜館。
まず目を引かれるのは、入口付近を蔦で覆われたその外観。
この蔦はもはやビル全体を包み込むように大きく茂っており、夜はとりわけ味のある雰囲気だ。
内部はこじんまりとしていて、バーのようなカウンターとテーブル席が少々。
この時カウンターには既に地元の常連客と思しき人々の姿があって、ママとなにやら談笑をして盛り上がっている様子であった。
夜はカフェメニューのみならず、ウイスキーをはじめとしたアルコールメニューもあり。
六曜館名物だという円盤餃子も気にはなったが、夜は別で考えていたのでブレンド珈琲付きのケーキセットを注文。珈琲はしっかり苦みがあって好みの味だった。
短時間の滞在ではあったが、自分のような一見客でも居づらい雰囲気は無く、非常に居心地良く過ごすことができた。
もし近所にあればついつい通ってしまいそうな、そんな素敵な喫茶店である。オススメ。
その後は電車でJRの塩山駅まで移動し、ようやくここで旅の同行者と合流をした。
ここからは二人旅というわけである。
塩山駅は観光地ではないので、駅を一歩出ると周りには住宅街が広がるばかりだった。
地図を頼りに暗がりを歩きながら、ようやく本日泊まる中村屋旅館へとチェックイン。
遅い到着だったが、女将さんが温かく迎えてくれてなんだかほっとした気持ちになったのを憶えている。
旅館の館内もまた素敵な雰囲気だったのだが、とりあえず夕食を取る必要があったので、探検は翌日の楽しみとした。
今回は素泊まりプランで夕食を付けていなかったので、少し歩いて近隣にある居酒屋のしおかわへ。
こちらは地元でも人気の店のようで、駐車場には沢山の車が止まっており繁盛している様子だった。
店内も地元の若者たちで賑わっており、活気のある雰囲気。
予約はしていなかったのだが、なんとかカウンター席に滑り込めたのでよかった。
まずは乾杯を。
甲府では自転車と徒歩とでかなりの移動をして疲れていたので、酒が染み渡る。
全体的に一品料理は量が多めで、二人なので丁度良い塩梅だった。
特に馬刺しは絶品だった。全く臭みがなくて、どんどんと酒がすすんでしまう。
そしてさんざん飲み食いしたつもりだったのだが、結局会計は二人で8000円弱という驚きのコスパ。味よし値段よしといった感じで、旅行先でこういうお店に当たると本当に嬉しくなる。
移動が多く疲れていたこともあって、宿に帰ってからは風呂をすませてすぐに床についてしまった。
この次の記事では旅館内部の大まかな様子と、そこから移動しての身延線沿いでの観光の模様について書いていこうと思う。
それでは。