前回に続いて那須旅行の記事です。
雲海閣を出てからはそのままホテルに向かうつもりだったのだが、せっかくなので近場でもう1軒ほど日帰り温泉に立ち寄ることに。
この辺りには鹿の湯の源泉を引いた掛け流しの温泉がひしめいており、どこに行っても外れはないのだろうが、道沿いにあったあさか荘さんがなんとなく目に留まったので行ってみることにした。
入口には大きく”日帰り入浴営業中”の看板が出ている。
中に入ると帳場には誰もおらず、日帰り客は雲海閣と同じように料金を置いていく方式だった。
館内は全体的に新しめで、外観よりもモダンな雰囲気を感じた。
廊下を進んで、突き当りの階段を降りたところが浴室となっている。
浴室は内湯が一つだけのシンプルな設え。
浴槽からは、翡翠のような美しい色をたたえた硫黄泉がザブザブと掛け流しされていた。
湯舟の縁は温泉成分の付着により、表面が白っぽくコーティングされている。
入口では42度と書いてあったが、実際にはもっと熱めだったと思う。
入れないほどではなかったので、何度か掛け湯を繰り返しゆっくりと浸かるようにした。
なおこの時も幸い先客はおらず、30分ほど独泉でゆっくりと過ごすことができた。
ふらっと入ってもこれだけ素晴らしい温泉に巡り合えるとは、やはり那須はすばらしい所である。
外に出ると気温は一桁台に下がっていたが、湯上りはポカポカとして不思議と寒くなかった。
温泉はもう満足できたので、暗くならないうちに宿へと向かうことにした。
温泉街の坂道を下り、2kmほど離れた那須いちやホテルへ。
案内された左手のカウンターで、とりあえずチェックインの手続きを済ませる。
ロビーは広々としていて、木の温もりを感じさせる落ち着いた雰囲気。
右奥にあるカウンターは、夜はバーとなり無料で利用できるそうだ。
今回は部屋でダラダラとしてしまい結局使うことはなかったが、栃木の地酒やオリジナルカクテルなども味わえるとのこと。時間が合えばぜひ行ってみてほしい。
ロビー奥にある休憩スペースとドリンクコーナー。こちらも宿泊客は無料で使用可能。
チェックイン後は少し休憩して外食をするつもりだったのだが、歩き疲れたのか湯疲れなのかうっかり寝てしまい、起きて外を見るとすっかり暗くなっていた。
行きたいお店もあらかじめ調べていたのだが、なんとなく遠出が億劫になったので近場のコンビニで適当に買って済ませることに。
車に気を付けながら、街灯の無い真っ暗な道を月明かりを頼りに歩いて行った。
自分の旅行はこのような急な予定変更がしばしばあるのだが、これはこれである意味一人旅の醍醐味といえるのかもしれない。寂しさを憶える瞬間があるのも確かだが、同行者に気を使わなくて良いというメリットはやはり大きい。
食事兼晩酌を部屋で済ませた後は、そのままおとなしく就寝した。
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朝目覚めてからは、いそいそと館内の貸切露天風呂へ行く準備をした。
今回いちやホテルを予約したのは立地や雰囲気に惹かれたというのもあるが、実はこのお風呂を何よりも楽しみにしていたのである。
いちやホテルには6Fと屋上階にそれぞれ2つずつ露天風呂があり、6Fは関東平野向き、屋上は那須山向きとなっていて、異なる眺望を楽しめるようになっている。
利用時間はチェックイン~夜までは予約制だが、朝はフリー利用となっており空いていればいつでも利用可能だ。
朝は一組当たりの時間制限も特に定められていないので、うまく入れるかどうかは運次第な所もあるのだが。
この時は幸いどちらも空いており、6Fと屋上階のお風呂をそれぞれ使うことができ良かった。
まずは那須山向きの、屋上にある露天風呂から。
入口の札を「使用中」に裏返し扉を開けると、このような開放感あふれる青空更衣室がある。
内鍵を掛けれるので、カメラなどの貴重品も持っていってOK。
そして扉を開けた先には、視界一杯に広がる錦秋の那須高原の絶景。
道を歩いている時にはややピークが過ぎたように感じられたが、文句なしの眺望に大満足。
世に”紅葉露天”と称される風呂は数あれど、ここまでのスケールのものは中々お目にかかれないのではないか。
正直ここまでのものとは想像していなかったので、暫し景色に見とれてしまった。
こちらのお風呂の利用は日帰り不可で宿泊客限定となっているのだが、頷ける話である。
この貸切風呂を日帰りでも開放したら、シーズン中はかなり混雑すると思うので。
ちなみに6Fの方はこんな感じ。
こちらも関東平野の雄大な景色を望めて眺望としては悪くないのだが、先に行った屋上露天からの景色があまりに良すぎたので、少々見劣りしてしまったのが正直な感想である。
時間帯にもよるだろうが、朝の時間帯に限って言えば屋上露天の方に行ければ個人的には無理して入らなくても良いと思った。
朝焼けの那須の絶景を満喫した後は部屋でゆっくり支度してからチェックアウト。
朝食付で1万円ちょいと自分にしてはやや高めのプランだったが、様々な共用設備が充実しており、とても満足度の高い滞在になった。
なにしろ屋上露天があまりにも素晴らしいので、それを使うだけでも宿泊する価値がある。
この日は特に計画を立てていなかったのだが、天気が良かったので近くにある南ヶ丘牧場へ行ってみることに。場所はいちやホテルの道沿いにあり、徒歩でも十分行ける距離だった。
那須はリタイヤ後の別荘地としてのイメージも強いが、その分売りに出される土地も多いのか、道中ではこのような売却希望の掲示も多く目についた。
ほどなくして牧場の入口へ到着。観光牧場だが、有り難いことに入場無料。
さすがに平日の昼間だけあって人はまばらである。
入口から少し進んだ所には、そこまで大きくはないが釣り堀もあった。
有料だがここで釣った魚はそのまま焼いて食べられるようで、子供たちがバケツを携えて釣果を競っていた。
少し歩き疲れてきたので、釣り堀の近くにあったミルク茶屋へ移動。
こちらで南ヶ丘牧場名物だというプレミアムソフトクリームを購入した。
普段自分は甘いものをそこまで取らないのだが、これは滅茶苦茶美味しかった。
ミルク感が強いのだが、甘さがくどくないのでどんどんと食べれてしまうのである。
ソフトクリームで思わずお代わりの注文してしまったのは初めてかも(笑)
牧場の敷地内では他にも乗馬やアーチェーリーなんかも体験できるようで、友人や家族と来ても色々と楽しめそうだと思った。混んでもいなかったし、結構穴場かもしれない。
のんびりと時間を過ごすのにはもってこいの場所である。
南ヶ丘牧場を発ってから、次に向かったのは木々に囲まれた藤城清治美術館。
ここではケロヨンでおなじみの影絵作家・藤城清治氏の作品約150点を、さまざまに凝らされた趣向と共に楽しむことができる。
入口の門から展示室の入口までは、しばらく庭園沿いの小道を歩いていくことになるのだが、道中は見頃の紅葉がたくさん残っておりとても綺麗だった。
順路の中ほどにあるこじんまりしたチャペルは、こちらも藤城氏のデザインによるもの。
すべてが手割りのレンガ作りによる建築というから驚きだ。
内部にちりばめられた美しいステンドグラスには、ケロヨンをはじめとたかわいらしいキャラクターたちが生き生きと映し出されていた。
絵本のような独特の淡いタッチが幻想的で、特に濃淡のあるブルー系の配色が個人的にとても気に入った。
それらを透過した太陽光が床を七色に彩る様子はまさに目も眩むほどの美しさで、思わず長椅子に掛けて佇んでしまったほど。
天気にも左右されるのかもしれないが、晴れていればぜひ立ち寄ってみてほしい場所である。
館内の展示は想像していた以上に充実した内容だった。
特に展示の目玉でもある、震災復興を願い製作された「魔法の森に燃える再生の炎」は必見である。水を巧みに使った幻想的かつ巨大な影絵には、思わず時間を忘れて見入ってしまった。
また幾つかの作品に対しては、作者自身による解説が併せて載っているのも面白かった。
ややもすれば無機質で客観的な情報に傾きがちな美術品の解説も、作者の言葉というフィルターを通すことで一気にそれが活き活きとしてくる。
氏の長いキャリアを通じての白黒からカラーへの変遷、そしてその作風や技法の変化する過程なども丁寧に紹介されているので、特に背景知識を持っていなくても楽しめるだろう。
入場料は高いが、自分のようにあまり美術や芸術について詳しくない人にも自信をもってオススメできる施設である。
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美術館を出てからは、いよいよ帰途に向けて高速バスの停留所へ向かった。
ただ意外と早めに着いてしまい時間を持て余したので、バス停からすぐ近くにある殺生石を見に行くことに。
荒涼とした景色のその一帯からは火山性のガスが絶えず噴出しており、辺りには硫黄の香りが立ちこめている。
ここに来たのは学生時代が最後だったので、なんとなく懐かしい風景に感じた。
ただひとつ大きく前回と違っていたのは、奥に鎮座する殺生石の様子である。
ニュースで見て知ってはいたが、想像以上に綺麗に真っ二つになっており驚いた。
この件を受けて那須町ではその後慰霊祭が執り行われたそうだが、自然現象でこうなってしまった以上、これを復元するべきか否かというのもまた難しい所である。
個人的にはこのままでいいような気もするのだが、九尾の狐を封印したという伝説の残る場所でもあるが故、地元では元の状態に戻すべきとの意見も上がっているようだが。
いずれの形であっても、殺生石は那須のシンボルとして今後も静かに街を見守り続けていくのだろう。
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いよいよバスの時間も近づいてきたので停留所へ戻り、そのまま直通バスに乗り込み新宿へと帰った。
那須は関東から至近であるにも関わらず、東北のような風情のある温泉を手軽に楽しめるという点で、個人的にはとても気に入っている場所の1つである。
1泊2日もあれば十分に回れるし、バスもそれなりに通っているので、2,3か所観光してゆっくりする程度であればクルマなしでも問題ない。高速バスも片道3000円台からあるので、日常に疲れた時にふらっと気軽に行くことができる。
もし自分が次に行くとしたら、友人や家族とであればいちやホテルに、一人であれば雲海閣に泊まりたいかな。
季節でいえば、夏だと少し暑そうなので初夏かいっそ、雪の降りしきる寒い冬の日が良いかもしれない。その内にまた硫黄の香りが恋しくなってきたら、改めて訪ねてみようと思う。
それでは。