日本三大花火・長岡まつり大花火大会
秋田の大曲・茨城の土浦と共に、『日本三大花火大会』の開催地として名を連ねる新潟県・長岡市。
昭和20年8月の空襲により甚大な戦禍を被ったこの地では、その翌年より戦災からの復興を願った「長岡復興祭」が毎年行われてきた。
そしてその数年後には名称が現在の「長岡まつり」へと変更され、日本有数の規模を誇る花火大会として全国にその名を知られることになったのである。
日本全土においてコロナの影響で多くの行事が中止となった2020年、21年は長岡まつりもその例に漏れず中止を余儀なくされたのだが、2022年には感染症対策などの措置が講じられた上で3年ぶりの開催が決定された。
今回8/2(1日目)開催分に参加をしてきたので、駅から会場に着くまでの様子や、初めてチャレンジした花火の撮影についてなども書いていこうと思う。
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うだるような暑さとなった8月2日の昼下がり。
花火目当ての乗客で満員御礼となった新幹線の車内には、平日であるにもかかわらず行楽の雰囲気が満ち満ちていた。
ホームを降りて大半の人は真っすぐに花火会場を目指すわけだが、自分は駅の近くに宿を取っていたので、先にチェックインだけして荷物を預けておいた。
こちらが駅の外観。
重厚な雰囲気だが、構内にはフードコートやお土産屋も多く入っており便利。
今回泊まったのは長岡駅より徒歩5分弱、アーケード沿いの雑居ビルに入っているゲストハウス長岡街宿というホテル。
こちらはいわゆるカプセルホテルになるのだが、一般的なそれよりも室内のベッド数が少なく余裕のある造りが印象に残った。個人用の鍵付き荷物入れがあるのも便利。
長岡は宿泊施設のキャパが限られており、例年花火大会の日は全く予約が取れないorべらぼうに値段を釣り上げている宿しか残っていないのが常なのだが、今回は直近でキャンセルが出たのか楽天であっさりと押さえることができた。
荷物を整理して少し休んでから、身軽な体でいざ花火会場を目指す。
プログラムの開始は19:20となっているが、混み具合が分からないので18:30には宿を出発した。
会場へは駅からアーケード沿いの道をひたすら進んでいく。
この辺りでは人混みの圧迫感もさほど感じられない。
駅から会場までの道には露店がちらほらと出ていて簡単なおつまみや飲み物程度なら購入が可能だが、あまり数は多くないので食事は事前に取っておくのがベターだと思う。
自分は駅前にあったサトウ商店さんで日本酒とビールを少し買っていった。
地酒の品揃えもよく、店員さんもフレンドリーなのでおすすめ。
また会場までの道中でひとつ興味深かったのが、駅から離れるにつれ目に付くようになるこの木製のアーケード。ちょうど建物のひさし部分が道路側にそのまま伸びたようになっていて、その渋い色合いの屋根からはなんともいえない風情が漂っていた。
後で調べた所これは「雁木(がんぎ)造」というもので、積雪期の通行をスムーズにするための日本海側の土地で見られる工夫なのだとか。夏でも日よけとして役立つし、面白い建築だと思う。
入場口付近にあったかき氷の屋台。大盛況で行列ができていた。
思えばここ数年コロナの影響でことごとくお祭り系が中止になっていたから、屋台に並ぶ浴衣の若者を見るだけでもなんだか懐かしく感じる。
いよいよ入場口が見えてきたところ。ここら辺から一気に人が増えたのを感じた。
人混みに揉まれながらも、なんとか無事に自席のブロックに到着。
余裕をもって出てきたつもりだったが、観覧席に着いたのは19:10頃で、意外とギリギリになってしまった。
観覧席から花火会場を望む。
眼前に広がる人の多さに一瞬驚いたが、これでも例年よりはだいぶ少ないとのこと。
ちなみに長岡花火では、信濃川沿いの約2kmに渡る打ち上げ会場の両岸に様々なタイプの観覧席が存在する。
正三尺玉などを除いたほとんどの花火は大手大橋と長生橋の間から打ち上がるのだが、信濃川がやや蛇行していることも手伝って、同じ花火であっても席によってその見え方は大きく異なってくる。
そして今年の花火大会でのこれまでとの最も大きな違いが、観覧席が全席有料席となったことである。
前回までは大手大橋の北側と長生橋の南側は自由席として無料で開放されていたのだが、今回からそれらはエリア席という名称に変わり他の指定席と同様に有料での販売となった。
今回自分が花火を観覧するのは会場右岸側のベンチ席。
やや傾斜した河川敷に横一列にベニヤ板が打ち付けられていて、その座面と前の空間を自分のスペースとして使うことができる。
ちなみに自分のシートはベンチ席の中でもかなり南側に位置するエリアだった。
そのため本投稿での花火の写真は、すべて右岸ベンチ席・長生橋寄りから撮影したものである。
カメラのセッティングを終え辺りも一段と暗くなってきた頃、会場に響くアナウンスと共に、実に3年ぶりの長岡大花火大会の幕が上げられた。
オープニングを飾るのは、真っ白な三発の花火(通称・白菊)。
長岡まつりが空襲からの復興を祈願した慰霊祭であることは先に述べた通りだが、冒頭のこの花火には特にその思いを強く込め、『慰霊と平和への祈り』という名がプログラムに銘打たれている。
写真にはうまく写せなかったのだが、薄暮の空を背景に打ち上がる白一色の大輪は、実に幻想的であった。
続いて北の大手大橋をフルに使ってのナイヤガラ。
くるくると色を変えながら、光の瀑布が本格的に長岡花火開幕の狼煙を上げていく。
間髪入れずに打ち上げられるカラフルなスターマイン。
通常の花火大会ではクライマックスとなるような花火の連発に驚く。
また備忘録として書いておくが、今回の花火大会におけるカメラ撮影時の設定は(花火にもよるが)おおむね以下のとおりである。
カメラ : CANON EOS 6D レンズ : EF28-135mm F3.5-5.6 IS USM
撮影モード : バルブ iso : 200 絞り : f6.3~9 ピント : MF ss : 3~10秒
長秒時ノイズリダクション&手振れ防止機能をオフ、RAWで撮影
ND8フィルター、ケーブルレリーズを使用
上記はまあ花火撮影時の一般的な設定かと思うが、ひとつ予想外だったのがND8フィルターの減光性能が思ったより高かったこと。
花火撮影にはND4か8を使うことが多く、今回自分はケチって安い8のほうを買ったのだが、序盤の小さめの花火をf9位で撮ったら想像よりもだいぶ暗く写ったので驚いた。
花火を一眼レフカメラで撮る人のほとんどはRAWで撮影するだろうから、暗いぶんには後から持ち上げればなんとかなるという話ではあるのだが。
まあ適正露出近辺で撮っておくに越したことは無いので、状況(≒花火の明るさ)によってf値やisoを柔軟に変えていくという発想だけは頭に入れておきたい。
例えば明るい花火が連発するスターマイン系は露出を3~5秒程度に抑えないとすぐに白飛びしてしまうし、単発の尺玉などでは逆に長めに撮ってにその光跡を写し取らないと寂しい絵面になってしまうといった具合である。
もうひとつ難しかったのが構図の問題。
それぞれのプログラムにおいて花火がどのぐらいの高さまで打ちあがるのか、そして約2kmにわたる信濃川沿いのどの位置から打ちあがるのか。これらを花火撮影の初心者が予想するのは正直かなり厳しいと感じた。
そのため自分も序盤は花火の観察に徹したのだが、当然そのような条件はプログラムごとに異なってくるので、これもなかなか上手くいかない。
そこで、自分は今回の花火撮影における暫定的な方針を次のように決めた。
①なるべく引きの構図で広めに撮る
→それぞれのプログラム内では終盤に行くほど花火が盛り上がっていき、特に地上付近~上方向へと展開していくことが多かった。そのため最初の小さめの花火に画角を合わせるのではなく、その数秒後に訪れる(であろう)メイン花火を捉えることを見据えて画角を広いまま保っておくという感じ。それに広く写しておけばトリミング等で後から調整もしやすい。
②迷ったらf値は大きくして暗めに写す
→白飛びしてしまったらいくらRAWで撮っていてもお話にならないので。
③撮影に集中しすぎず、花火の鑑賞を楽しむ
→正直ある程度の慣れが必要なジャンルに思えたので、最初から上手く撮るのは諦め、肉眼でしっかりと花火を観ることを忘れないようにした。
長々と書いてしまったが、結局のところよく分からないので雰囲気でシャッターを切っていたというのが実際のところである(笑)
初心者なりの撮影戦略の紹介はこれくらいにして、花火の写真を引き続き貼っていく。
覆いかぶさるような迫力のベスビアス超大型スターマイン。
長岡花火じゃなかったら普通にフィナーレ級w
続いてプログラムの目玉の一つである天地人花火。
2009年放映のNHK大河ドラマ『天地人』のテーマと共に、老舗・野村花火工業提供による多重芯花火が夜空を美しく飾る。
花火玉は芯の外側にある層の数によってその呼称が異なるのだが、これはそのなかでも五重芯(いつえしん)と呼ばれる、最高峰の技術を必要とするもの。
風が流れず少々煙が残ってしまったのが残念だが、雄大な音楽に合わせて夜空を彩るその芸術性の高さには、思わず息をのむほどだった。
カラフルな5色のワイドスターマイン。この辺りから少しずつ煙が流れて見やすくなったように感じた。
ここまででも十分すぎるくらい凄いのだが、長岡花火の真の見せ場はまだまだここからである。
20:15、いよいよ長岡花火の代名詞といえるプログラム、復興祈願花火フェニックスの打ち上げが始まった。
2004年に阪神・淡路大震災以来の規模で長岡市を襲った、新潟中越沖地震。
長岡の町も甚大な被害を受けたのだが、そんな苦境からでも、”何度でも不死鳥のように蘇って復興する”という意志がこの花火には込められている。
長岡花火大会の中でも、冒頭の白菊と並んで特にメッセージ性が強いプログラムといえるだろう。
そしてその内容はというと復興のテーマ曲である平原綾香の『jupiter』と共に、約2㎞に及ぶ打ち上げ会場全域に渡って、5分間ものあいだスターマインを打ち上げ続けるという規格外のものである。
目の前の地平全体が花火で埋め尽くされていく様子はまさに絶景で、これを見て涙を流す人がいるという話も頷けるものだった。
カラフルなスターマインの怒涛の打ち上げが続く。
フィナーレは頭上に花火が降り注いでくるように感じる程のド迫力だったw
火薬の量が尋常ではないので煙の滞留もすごいことになっている。
観客たちもこれには大興奮で、会場からは惜しみない拍手が注がれていた。
フェニックスの名に恥じない、まさに長岡の誇りと言っていいプログラムである。
そしてもう一つ、フェニックスと並ぶ大型プログラムであるナイヤガラと正三尺玉の打ち上げ。
正三尺玉は他のスターマイン系と違って、長生橋の南側から打ちあがることになっている。自分も向きを変えて待機。
始まりは、ライトアップされた長生橋を贅沢に使ったナイヤガラから。
圧倒的光量の前に成す術もなく白飛びw
そして物々しいサイレンの音が鳴り響いた後、満を持して巨大な正三尺玉が夜空に打ち上げられる。
このサイズの尺玉はさすがに凄まじい迫力で、打ち上げ時の衝撃が観覧席でも感じられるほどだった。
引きの写真ばかりではなんとなく単調なので、花火をトリミングで切り出したものを何枚か貼ってみる。意外と面白い画になったかもしれない。
ワタナベグループ提供のスプラッシュファイヤー炎の舞。
銀系の渋い色使いのスターマインと、そこから展開される儚くも美しい千輪。
そして今回、個人的に一番感動したのが終盤の故郷はひとつというプログラム。
全体の構成も素晴らしいのだが、なにより目を奪われたのがその発色の美しさ。
風向きも味方してくれたので、万華鏡のような緻密な色彩の変化を存分に堪能することができた。
この花火の打ち上げを担当したのが、多くの花火ファンから愛されている名門花火会社・マルゴー。パステルカラーの美しい発色の花火や、色の変化を利用した「時差式花火」を得意とする一流の花火師である。
ガラス細工のような緻密な花火たち。
いやー、ほんとうにすごい景色だ…
このプログラムのおかげで自分もすっかりマルゴーのファンになってしまった(笑)
他の花火大会での様子もぜひ見てみたいなぁ。
また参考までに、典型的な失敗写真も1枚貼っておく。
スターマイン系は欲張って重ねすぎるとあっというまに白飛びして大爆発しますw
長岡高等学校卒業生有志による、古希祝いの花火。
青系は色が出にくいそうなのだが、一点の曇りもなく綺麗に花開いていた。
さて、これにてメインプログラム自体はすべて終了である。
しかし最後の最後に、”番外”という枠で長岡花火の真のラストを飾る演目がある。
それがこの匠の花火というプログラムである。
金粉をまとったような上品な打ち上げ花火や、
まるでお菓子のような虹色の千輪も。
専門的な知識が無いのでうまく説明できないのだが、なんとなく職人のこだわりが強く感じられるような、変わり種の花火が多かったような気がする。個人的には小粒ながらも珍しい花火をたくさん見れて楽しかった。
すべてのプログラムが終了したと思われ、多くの人が撤収準備を始めた頃、なんと運営側から3年ぶりの開催を祝してのサプライズ花火が!
"Hope To The Future"と名付けられた、会場を照らす5色の花火。
観客だけでなく、運営側の人々にとっても長岡まつりは特別な想いの詰まった花火大会なのだろう。
そしてその長岡まつりの締めとなるのが、毎年恒例の「光のメッセージ」。
これは来場者・花火師・運営スタッフがお互いに光るものを振り合って感謝を伝えあうとともに、来年の花火大会での再会を願うものである。
光に包まれた会場に溢れる、心地の良い一体感。
でも、そろそろ帰らないといけない。
帰りの駅までの混雑はなかなかのカオスだった。
新幹線で日帰りで来る場合は(観覧席の位置にもよるが)早めに会場を出たほうが良いだろう。
宿に着いてからはシャワーを浴びて、撮った写真を見返しながらゆっくり。
サトウ商店で買った長岡の地酒・五十六をチビチビと楽しむ。
これがまた非常に飲みやすく、ふくよかなコメの味わいもしっかり感じられて個人的にはかなり好みだった。やはり地酒は現地で飲むのが一番だ。
丁度一本飲み切ったところでいい感じに眠くなってきたので、なるべく音をたてないように気を付けつつ、自分の床に戻り眠りについた。
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翌朝はチェックアウトしてからお土産を買いに、とあるお店へ寄り道をした。
長岡を代表する老舗和菓子店・越野雪本舗 大和屋さんである。
www.koshinoyuki-yamatoya.co.jp
こちらは創業を1778年にまで遡る由緒ある和菓子店なのだが、味はもちろんのこと、見た目にも楽しい数多くの銘菓を今日まで長岡の地で生み出し続けている。
次の写真は夏のラインナップの一部である。長岡花火に因んだものもある。
可愛らしいお菓子が多いので買いすぎてしまうのが難点かもしれない(笑)
なお長岡駅でも上記の商品は購入できるが、店舗の方が混んでおらず雰囲気もいいので、時間がある方にはこちらをオススメしたい。
一通りお土産を買ったあとは、最後に食事を取りたかったので早めに駅ビルへ。
フードコートにある長岡やなぎ庵にて天ぷらうどんを一杯頂いた。提供も早いし、モチモチとした麺も美味しくて最高。
構内のお土産屋を冷やかしていると、あっという間に帰りの新幹線の時間だ。
午前中の東京方面だしひょっとしたらガラガラかも?と淡い期待を抱いていたのだが、しっかりと帰りも満席御礼でした。さすが長岡まつりである。
おわりに
じつに3年ぶりの開催となった、2022年の長岡まつり大花火大会。
直前までその開催には賛否があり難しい状況での実施となったものの、結果的には多くの人々の思い出に残るような素晴らしい花火大会になったのではないか。
自分はしょせん一観光客に過ぎないが、少なくとも良いことだったと思っている。
最後に、今回実際に参加してみて特に役立った持ち物を書いて終わろうと思う。
・座椅子
→観覧席の位置にもよるが、ほとんどの時間帯は花火を見上げるような体勢でいることが多くなる。後ろの人の邪魔にならないような、座高より低いコンパクトな座椅子があれば、よりリラックスして花火を観ることができる。
・水、つまみ、酒
→道中で売っていないこともないが持っていくほうが楽。ただ飲みすぎはトイレが近くなるので注意しよう。
・シャッターレリーズ(カメラで花火写真を撮る人のみ)
→本格的な花火撮影には必須といっていいアイテムだが、なにより肉眼で花火を鑑賞しながら撮影ができるという点がよかった。もしファインダーを覗きながらの撮影だったら、それこそ手いっぱいになって、良い写真が取れても楽しみが半減したかもしれない。
そしてもうひとつ、時間を気にせず花火に没頭できるという点でも、また帰りのラッシュを避けれるという点でも、やはりできることなら長岡に一泊しての鑑賞をお勧めしたい。チケットやホテルの予約であったり、そもそも日程に合わせてうまく休みが取れるかという問題はあるだろうが。
来年以降も長岡まつりが絶えることなく続いていき、より多くの人々がこの素敵な花火大会に訪れることを心から願っている。