玄の散歩帖

温泉、レトロ、写真など好きなものごった煮ブログ

東鳴子温泉 黒湯の高友旅館 宿泊記                         ~アブラ臭が充溢する黒湯での究極の湯治体験~

 

温泉のデパート・鳴子温泉郷

こけしで有名な宮城県大崎市鳴子温泉郷はその泉質の豊富さから”温泉のデパート”の二つ名を持つ、東北でも有数の一大温泉地である。そこでは温泉法で定義されている10種の泉質のうち7種ものお湯が湧出しており、周辺では多くの個性豊かな温泉宿や立ち寄り湯が軒を連ねる。

 

なお鳴子温泉郷とは単独の温泉地を指すものではなく、その一帯にある5つの温泉地を総称した呼び名である。昨年に訪問した高友旅館はそのうちの一つである東鳴子温泉に属しており、電車の駅で言うと鳴子御殿湯駅がその最寄りとなる。

モダンな外観の鳴子御殿湯駅

小さな木造の駅舎は、どこか木の温かみを感じる雰囲気。

内部に飾られている絵は、すべて版画家の大野隆司氏による作。

柔らかなタッチの猫こけしのイラスト共に、ほっこりするようなメッセージの数々が添えられている。

ヘビはちょっと来てほしくない(笑)

駅の前は緩やかなスロープになっている。

宿に向かう前に、駅前にある観光ストアーなるみで少々買い物を。

コンビニ兼お土産屋さんのような感じで、旅行者に必要なものは大体揃っている。

こちらは栗団子が名物のようで、陳列されていたものがとても美味しそうだったのでひとつ購入してから宿へ向かった。

晩秋の時期だったので、道沿いの木々が真っ赤に染まっていて綺麗だった。

駅から200mほど歩いたところで、左手に見えてくる土蔵のような建物。

いかにも古びた日本家屋といった趣のこちらが、本日のお宿の高友旅館である。

 

館内~部屋の様子

重たい引き戸を開け中へ入ると、館内には見事なまでに昭和テイストな温泉旅館の空気が漂っていた。

正面にある特徴的な形をしたカウンターの並びに帳場がある。

作業服姿の男性にチェックインの旨を告げると、快く部屋へと案内してくれた。

高友旅館はその創業を大正14年にまで遡る宿で、長い歴史の中での増改築により内部は非常に複雑な構造となっている。中には同じ平面上でもいったん二階に上がって降りなければたどり着けない場所もあったりして、最初は自分が建物のどこを歩いているのか中々つかめなかった。

大雑把に説明すると、まず帳場などがある道路側に近い建物が現在旅館部として使われている本館で、2食付きプランの利用者は基本的にこちらへ泊まることになる。

奥側にある棟は湯治用の自炊部となっており、昭和52年に増築されていることから通称52年館と呼ばれている。こちらは旅館部に比べ設備面では古さが目立つというのがもっぱらの評判である。

このたび宿泊したのは旅館部にあるききょうのお部屋で、玄関前の階段を2階に上がって少し進んだ所にある。

ドアこそ新しいが、部屋の周囲はなんだか不安になるような感じが…(笑)

部屋の中の様子。

砂壁には剥がれや割れ目が目立ち全体的に古びているのは否めないが、これくらいならまあ自分は許容範囲といったところ。後で調べたところこのききょうのお部屋が一番キレイなようなので、ここで厳しければちょっと宿泊は難しいかもしれない。

部屋は二間続きになっており、奥側は寝室となっている。

意外にも窓の建付けはしっかりとしていて、滞在中に室内で虫の姿を見かけることはついぞ無かった。また部屋にエアコンは付いていないが、ファンヒーターが置いてあるので寒さの面は問題なし。ただ夏場は扇風機のみになるので、冬はともかくとして暑い時期はちょっと辛いかもしれないと思った。

 

夕食

今回は2食付きプランなので、帳場近くにある会場にて夕食を頂いた。

大きなお盆で出てきたお食事は意外というか、想像以上に豪華な献立であった。

館内と部屋の様子からある種の覚悟はしていたのだが、ちょっと拍子抜けしてしまうくらい良い意味でのギャップがあった。

お刺身も新鮮な色をしている。

鮎の塩焼き。

調理担当の方はお一人と思われるも、自分だけということもあり暖かい状態での提供だった。ホクホクした身が美味しかった。

お肉の陶板焼きも柔らかくて美味。

そしてなんと海鮮の寄せ鍋まで。タラの切り身や小さなカニも入っており、寒い冬にぴったりの一品だった。正直二食付きで一万円超は少し高いなと思っていたのだが、食事の内容を見て納得した。量も満足である。

 

館内の温泉めぐり

高友旅館は驚くことに4本もの自家源泉を所有しており、それらが以下に紹介するそれぞれの浴室で全てかけ流しにて使用されている。

 

まず本館一階にあるのが女性用のラムネ風呂、男性用のひょうたん風呂、それから貸切の家族風呂。そして52年館にあるのがもみじ風呂で、本館と52年館の中間あたりにあるのが宿の目玉となっている黒湯プール風呂である。ただし訪問時はひょうたん風呂は故障のため入れなかった。

それぞれの浴室は場所が離れているので、まず部屋のそばの家族風呂から入って、その後は遠い順に52年館のもみじ風呂→黒湯→本館のお風呂の順で回ることにした。

家族風呂はききょうのお部屋から階下に降りてすぐの所だが、知らなければ見落としそうなくらい目立たずひっそりとしている。

なかなか渋い浴室である。

だがもっと目を引いたのは、その湯口の部分だった。

温泉成分が油膜状になって、床の上でヌラヌラと光っていた。

人体に害などは無いだろうが、実際に見るとなかなかインパクトがある。

温度は体感37℃位で冬に入るにはちょっと冷たすぎな感じ…

お湯からはアブラ系の香りがほんのり感じられるものの、想像していた程ではない。

温まりが良い感じでもなかったので、早めにあがることにした。

続いては玄関前の階段を下りて、52年館にあるもみじ風呂へ。

夜は館内の照明がほとんど落とされており、正直歩くだけでも怖いw

思わず早足になりながら、もみじ風呂の浴室前まで到着。

ここもなかなか勇気要る感じだな…

もみじ風呂の脱衣所は、ちょっと凄い荒れっぷりだった。

壁紙は剥がれ落ちて脱衣かごは埃だらけ。ここだけ見るともはや廃墟に近い。

浴室に入ると、今度はほんのりとした硫黄の香りがする。同じ建物内でも異なる泉質を楽しめるのは面白いなあ。

 

ただこちらのもみじ風呂、先ほどと打って変わっての激熱だったので困った。当然ながら加水をしての入浴となったのだが、水の勢いが弱く入れるようになるまでに結構な時間を要してしまった。

さっきのもみじ風呂もそうだが、設備のメンテナンスや湯温調整にはもうあまり手が回っていないのだろう。お湯にはかき卵のような細かく白い湯の花が大量に舞っており気持ちがよかったが。

その後はいよいよ黒湯へ。

奥は婦人用風呂への入口となっている。こちらもなかなかの朽ち果て具合だ。

相変わらず清潔感は今一つだが、他の浴室と比べたらここが一番マシだと思う。

なお黒湯は混浴なので、女性もこちらの脱衣所を使用して温泉に入ることになる。

が、見ての通りかなりハードルは高めなので、宿泊であれば19時から21時の女性用時間に入るのが無難である。

扉を開けて入ると、薄暗い浴室の奥に暗褐色の黒湯が妖しく横たわっているのが見えた。

もともと電気が半分消されていたのだが、より雰囲気が出るような気がしてそのままで入浴。

そして浴室内には聞きしにまさるほどの、コールタールやタイヤのような物凄い匂いが充満している。これはすごい!!

黒湯の奥にある長方形の湯舟は、別源泉のプール風呂である。

手を入れてみたところかなり温めだったので、こちらは翌日の朝に入ることに。

お湯に身を浸すと、むせかえるようなそのアブラ臭が鼻孔を襲ってくる。

泉質表によればは含硫黄ーナトリウムー炭酸水素塩泉となっているが、正直硫黄の香りは全く感知できなかった。

湯口にあるデロデロの白い湯花

それにしてもこの妖しい雰囲気よ。

室内の暗さも相まって、まるで市川崑監督の金田一シリーズにでも出てきそうな空気感。

現代の施設では、このような温泉体験はそうそうできないに違いない。

かつて文豪たちがしばしば行っていた、”侘しい湯治宿での逗留”というのはこんな感じだったのかなぁ、とちょっと思ってみたり。

奥の方にある湯口付近の様子。

この辺りは析出物がものすごく、浴槽周りは千枚田のようになっている。

黒っぽいお湯の表面が泡立っている様子は、少々不気味でさえあった。

お湯の成分の強さが物凄いので、その影響は床のみならず壁や周辺にまで波及している。

もはや温泉が作り出した見事な芸術作品である。いやはや、どれだけ濃厚な成分なのか。

長湯するとなんだか湯あたりしそうな気がして、都合30分ほどで上がった。

自分の中でこの黒湯が色々と衝撃すぎたのと、このまま湯巡りするとぐったり来そうな感じもあったので、この後はラムネ風呂をカットして部屋に戻ることにした。晩酌も程々にして、そのまま就寝へ。

買ってきた栗団子。素朴な甘さで美味しかった。

 

朝食~再び黒湯へ

朝起きて驚いたことなのだが、体の調子がなんだかすこぶる良い

うまく言えないが全身が軽い感じというか、もはや体の小さな不調が全て治ったような感覚を憶えたほどであった。

温泉には基本的に疲労回復の効能はあると思うのだが、ここまでの即効性を感じたのは初めてである。その効能に感動すると共に、改めてとんでもないお湯であることを実感させられた。

朝食は普通な感じ

朝食後は再び黒湯へ。

こちらは黒湯の入口前にある広間。

館合図では卓球場と書かれていることから、昔は卓球台が置かれてここで遊べる感じだったと思われる。

広間の奥から右奥に通じている廊下。

昔は行けたようだが、現在はロープがはられて行けなくなっていた。

卓球場の隅にあった、埃をかぶっている古びた馬の遊具。夜はけっこう不気味だったw

天井からガッツリ雨漏りしているが、大丈夫だろうか…

相変わらず凄い香り。でも、なんだかクセになってきた。

なお洗い場も一応あるが、シャワーは壊れており使い物にならない。

また奥の析出物エリアを見に行ってみた。

こちらも相変わらずの禍々しさである。

昨夜同様に表面は少し泡立っており、湯口には白い湯花が大量に繫殖している。

そのまま夜に入らなかったプール風呂へ。昨夜よりは暖かくなっていたが、それでも40℃位でぬるめだった。色はほとんど透明で、香りや浴感も黒湯の後だとあっさりに感じる。

黒湯にしばらく入って、熱くなってきたらこっちでいったんクールダウンをするのも良さそうである。

こんなところにも析出物が育っている

またまた黒湯へ。

消しカスのような大量の黒い湯花と、湯口から千切れ流れてきたと思われる白い大きな湯花。

かぐわしいアブラ臭香る湯を心ゆくまで堪能し満足できたので、部屋へ戻って出発の準備に取り掛かった。

(ちなみに後から気づいたのだが、黒湯で満足しすぎてラムネ風呂には入り忘れてしまった…)

 

高友旅館 宿泊感想まとめ

その個性の強いお湯やボロボロ具合から、SNSなどでもなにかと話題に上る高友旅館。はっきり言って館内は清掃もメンテナンスも行き届いてはいないが、そのお湯の良さは本物である。

 

普通の旅行者にはちょっと勧められないものの、温泉好きであれば一度は勇気を出して訪れてみて欲しいところである。夏は虫やら暑さやらで大変そうなので、より快適に過ごせる冬の時期がおすすめだ。

 

そして館内の様子から見ても恐らく色々と長くは持たないと思われるので、興味があるなら早めに行ってしまうのが良いだろう。そして可能なら宿泊もして、あの妖しさ漂う夜の黒湯での湯治をじっくりと味わってみては如何だろうか。

 

 

それでは。