前回に続き、2023年の鹿児島湯巡りの記事です。
川内からはJR鹿児島本線で薩摩半島を横断するように移動し、鹿児島中央駅からはそのままJR日豊本線に接続。錦江湾に浮かぶ桜島の雄姿を眺めつつ、隼人駅でさらに肥薩線へと乗り換えした。
宮崎との県境が近づいてきて、隼人を発ってから都合一時間ほどが経った頃。
簡素なコンクリートの駅舎にベンチが並んでいる鶴丸駅へようやく到着。
鶴丸駅は無人駅のため改札が無く、架線からひょいと階段を越えればそこはもう駅の外である。周辺にはコンビニや商店も無く田んぼと民家が並ぶ長閑な景色が広がっているが、よく見るとそばに車が何台が止まっている施設がある。
近すぎてうっかり通過しそうになったが、こちらが本日のお宿の鶴丸温泉である。
地図で駅のすぐ前にあることは確認していたのだが、まさかここまで近くに建っているとは思っていなかった。駅のホームから宿まで行くのにおそらく1分も掛からず、ほとんど駅直結と呼んでいい位の距離感だった。
受付では飲み物のほか、地元のお惣菜なども色々と売っておりローカル感満載。
日帰り利用客がメインなのか、この日の宿泊客は我々のみであった。
また珍しいと思ったのが、館内や浴室で流れているBGMがすべてジャズであるという所。
和風旅館とジャズとは珍しい取り合わせだと最初は思ったのだが、慣れてくるとその静かな音色がどこか心地よく、喫茶店やサロンにいるような気分で寛いで過ごすことができた。
部屋はトイレ無しの六畳一間で、縁側付きだった。共用部と同じく少し古びた感じはするが、清潔感はまったく問題なし。洗面所は簡易的なものが縁側脇に備え付けられている。
お隣はどうやら介護施設のようで、窓からはその駐車場に止まる沢山の車が見えた。
今日は朝から移動が続きちょっと疲れていたこともあり、食事はやや遅めにお願いして先にお風呂に入ることにした。
というわけで、まずは内湯の浴室の様子から。
壁のタイル画は、思わずうっとり眺めてしまうような美しさである。
人気の施設のため日中は絶えず人の出入りがあり、なかなか写真を撮るのが難しかった。
浴槽は楕円が二つくっつけられた様な特徴的な形をしており、中央のボウル型の湯口からは琥珀色のモール泉が掛け流しで滔々と注がれる。泉質はナトリウムー炭酸水素塩泉。
源泉温度が高いため加水されているが、湯口についている蛇口で調節が可能。
この時は洗い場に向かって右側がかなり熱め、左側がやや熱めの適温といった感じだった。
鶴丸温泉が傑出している点はとろみをもったその独特の浴感に加えて、何といってもお湯から放たれる香りの良さにあると思う。基本的にモール泉系の香りは好みなのだが、こちらのものはアブラ臭だけでなくヒノキなど木材系のさわやかな香りがふんだんに感じられた。まさしく天然のアロマである。
続いて露天風呂の様子も。緑に囲まれており静かで良い雰囲気。
屋根付きなので、雨の日でも快適に湯浴みができそう。
露天は加水されていない源泉が直接投入されているため、その色は内湯よりも一段と黒っぽく見える。また内湯では見られなかった湯の花も大量に浮遊しており、より鮮度が高く濃厚なお湯を楽しむことができる。
ちなみに内湯から露天へは小さなドアを開けて屈みながら出ていくのだが、壁に同化しており目立たないので、うっかり入り忘れないように注意したい(写真は露天側から撮ったもの)。
自分は前情報として知っていたので大丈夫だったが、浴室に案内表示なども無いので知らなければその存在にすら気づかず帰ってしまった可能性もある。
源泉100%の露天はその香りも一層とかぐわしく、目に優しい木々や緑の下、流れるジャズをBGMに携えた最高の湯浴みとなった。加水されていないぶん温度はかなり熱めだが、横に水風呂があるので交互浴をして楽しむこともできる(自分は水風呂が苦手で試していないが)。
その後は夕食へ。
襖で仕切られた食事会場は民家の一室のような素朴な雰囲気だが、並べられた料理や器はどれも美しく期待が高まった。
お造り、焼き物、煮物といった定番に加え、後出しで天ぷらの盛り合わせも。
凝ったお品書きこそないものの、地産の食材がふんだんに使われており一品一品が美味しかった。
西日本なので、お造りはもちろん甘いお醤油にて頂く。
焼き物にはお肉と大ぶりのエリンギ、それから玉ねぎが少々。着火剤が置かれていて自分のタイミングで食べられるのが嬉しい。味付けはおなじみエ〇ラのタレで。
この山菜の煮物は特に美味しかった。
旬のタケノコからは優しく上品な甘さが溢れており、お代わりしたくなってしまう程。
天ぷらは後出しなので、温かくベストな状態で味わうことができる。こちらも美味。
この内容にもかかわらず、宿泊料金は1泊2食付きで8800円(税込)とリーズナブルなのは非常に有り難い。ビールや芋焼酎なども追加しつつ、満腹になるまでゆっくりと夕餉を楽しませてもらった。
部屋で暫く休憩したのちは、またまたお風呂へ。
鶴丸温泉の日帰り入浴は21時までとなっており、その後はいったんお湯を抜いての清掃が入ることになっている。なのでそこからちょっと時間を空けて行ってみたのだが...
どうやら早すぎたようである(笑)
内湯にはお湯が全然溜まっておらず、もし浸かっても体の半分にも満たないだろう。
しかしまた部屋に戻るのもなんだかな、と思って露天のほうを覗いてみることに。
こちらはしっかりとオーバーフローしており問題なし。内湯は明日の朝にもう一度入るとして、今夜はこちらでゆっくりするとしよう。夜の外気で冷やされたせいか温度はドンピシャの適温になっており、日中よりもゆっくりと長風呂ができ良かった。
***
翌朝は早起きして宿の周辺に広がる吉松温泉郷の外湯巡りをしたのだが、ボリューム的にそちらは別記事として次回にまとめようと思う。以下、そこから戻ってきた後の朝食の様子を。
朝から鍋物が出てくると、なんだか旅行に来たという感じがして気分が盛り上がる。
昨夜に続き朝食でも美味しいタケノコが食べられたので良かった。
食後には鹿児島の郷土食であるあくまきを頂いた。
ちまきに似た見た目をしているが、その名の通りもち米を灰汁水で煮込んで作るのでややクセの強い風味となる。そのまま食べると独特のえぐみがあるので、写真のようにきな粉をまぶして食べるのが一般的である。腹持ちが非常に良いので、デザートと呼ぶには少々重ためかもしれないが。
食後は部屋で荷物をまとめ、チェックアウト前に最後のひとっ風呂へ。
一番風呂の常連さんたちと入れ替わるようなタイミングで、つかの間の独泉タイムを楽しんだ。
あ~っ、ホントにいい湯だなあ。。。
結局電車の時間ギリギリまで内湯でゆっくりしてしまって、受付で鍵を返してからは慌てて鶴丸駅のホームに駆けこむ事となった。電車の本数が少ないのは難だが、やはりこのアクセスの良さは素晴らしいと思う。
食事も質・量ともに満足がいくものだったし、なによりそのお湯が素晴らしすぎるので、温泉ファンにはぜひとも勧めたいお宿である。周囲に広がる吉松温泉郷にも徒歩でアクセスできる立地なので、湯巡りの拠点としても利便性が高い。次の記事では、それらの外湯巡りの模様について紹介していくつもりである。
それでは。